IF Another despair side:Syugeibu

あってはならない未来。 けれど、ありえなくはない未来。

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Le.8

【IF Another despair】迷子のカラス



それは、最悪の可能性。
あってはならない「もしも」の話。
けれど、ありえなくはない未来。
人類が銀色の雨の前に敗北した場合のお話――。

――蒼天を舞う鴉は、嵐に負けて地に堕ちる。
【20XX年 エリア・イソゴ】

無機質な廊下を一人の男が歩いている。
身に纏う制服を見るに、自衛官なのだろう。
階級章から、一佐相当官であることが分かる。
彼は政府直轄の能力者特殊部隊、イソゴ方面の責任者だった。
強力な個人戦闘能力を持つ能力者を自衛隊が管理することは、部隊設立当時、様々な反発を呼んだものだ。
だが、今ではそんなことを気にするものは中にも外にも居ない。
否、そんなことを気にしている余裕など無い。と言った方が正しいか。
男は一つの扉の前で立ち止まり、その扉を開け放つ。
薄暗い部屋だった。独房か取調べ室かという風情の殺風景な空間。
――そこに一人の女が居た。

「おい、起きろ」
だが、彼女は椅子に座って項垂れたまま反応せず。
男は舌打ちを一つすると、もう一度口を開いた。
「起きろと言っているっ。“鴉(レイブン)”」
多少の苛立ちが含まれたその声に、今度は反応があった。
彼女はゆっくりと顔を上げると、焦点の合わない瞳で男を見上げる。
その女は、男の制服をもう少し簡略化した様な服を纏っていた。
つまりは、彼女も能力者特殊部隊の隊員なのであろう。
「なん……で、しょうか……」
カサカサにかすれたような声がその女の口から毀れる。
年は20代後半だろうか。
見かけだけならもう少し老けて見えるかもしれない。
長い黒髪は既に瑞々しさを失って久しく、その手は意味も無く手首に巻かれた虹色のミサンガを弄っている。
部隊の制服ではないベレー帽の下から覗く目は、何の生気も宿さず濁った色をたたえていた。
「エリア・カナザワでケースG1。中型の妖獣が8体だ。貴様が行って対処してこい」
「……!」
反応は劇的だった。
弾かれたように立ち上がり、大きく目を見開く。
死んだ魚の様だった瞳に、暗い情念の焔が宿る。
ケースG1――敵性ゴースト出現を示す言葉を聴いた途端である。
一瞬前とは別人の様な反応にも、男は眉一つ動かさない。
彼女――“鴉”はそういう人間なのだ。
「詳しいブリーフィングは移動中に行う。さっさと支度をしろ」
首肯が返される。
彼女は、それは嬉しそうに、ひどく歪な笑顔を浮かべた。

――地に堕ちた鴉は、月夜に再び舞い上がる。
【エリア・カナザワ】
廃墟と化した市街地を、数名の男達が進んでいた。
「隊長、この近くです」
「よし、散開してターゲットの捜索を行う。相手はBランク能力者だ。単独の交戦は許可しない。教主様に頂いた命、無駄遣いは許さんぞ」
彼らは「教主」に忠誠を誓う、『白の庭園』の兵士達である。
『白の庭園』の本拠があるこのエリア・カナザワで、政府の能力者が目撃されたという情報を受けて派遣されたのだ。
「行け。迅速かつ確実に教主様の敵を見つけ出せ」
『了解!』
四方に散っていく男達。
それを見届けると、隊長と呼ばれていた男も別の方向に足を向けた。
時間はすでに夜。辺りには街灯すらないが、訓練された彼の眼なら月明かりでも十分。
瓦礫の隙間を縫って移動する。
幾つかの通りを横切って、大きな廃ビルが並ぶ地区に出くわした。
元は団地か何かだったのだろうか。今はどの建物も荒れ果て虚ろな姿をさらしている。
月明かりの下、それらは立ち並ぶ墓標を思わせた。
「……はっ、柄でもない」
頭を振って益体もない妄想を追い払う。
肩から提げた長銃を構えなおして、角を曲がる。

そこに、彼女は居た。

角を曲がった先、元は団地の広場か公園だったのであろう場所。
その中央に、こちらに背を向けて佇んでいる人影。
彼女こそ、探していたターゲット、教主様の敵、政府の能力者。
「――“鴉(レイブン)”」
咄嗟にビルの陰に隠れ、通信機のボタンを押す。
これで、部下たちも此処に集まってくるはずである。
そして状況を確認しようと、もう一度角から顔を出す。
「……っ!」
目が、合った。
先ほどとは違い、こちらを振り向いていた“鴉”とまともに目が合ってしまった。
全く似合っていないサングラスの奥から、暗い視線が突き刺さる。
こうなっては隠れている意味は無い。
彼女を逃がさないために、角から躍り出て銃を向ける。
「動くなよ、“鴉”。動くと撃つ」
我ながら間抜けなセリフだとは思うが、仕方ない。
そもそもBランク相手に1対1では勝負にならないのだ。
だが、相打ち覚悟で攻撃すれば殺される前に一撃加える位は出来るだろう。
とにかく今は膠着状態を作って、部下が到着するまでの時間を稼ぐしかない。
「……で…さい…」
「……何?」
今、この女はなんと言った?
銃を向けられているのに微塵も警戒した様子も無く。
空っぽの表情のまま、何を口にした?
怖気が背筋を走る。
気圧された様に動けない彼に、“鴉”がもう一度口を開く。
「邪魔を、しないで下さいませんか……」
「何だと?」
「今、お仕事中なので…邪魔しないで下さい……」
「隊長!」
割り込んでくる声。
背後から、部下たちが現れる。
“鴉”を挟んで反対側のビルの陰からも2人、出てきたのが見えた。
これで、奴を倒せる。
挟み撃ちは既に出来ているのだ。後は一斉攻撃で片を付ければいい。
嫌な予感を振り払えないまま、命令を下そうと口を開いて、
「そっち、危ないです」
「な、うわぁ!?」
反対側から出てきた部下たちの悲鳴。
物陰から飛び出てきた猫に引きずり倒されている。
いや、違う。人間よりもデカイ猫が居るわけがない。あれは――
「っ、ゴースト!」
猫型の妖獣が、次々と現れる。
2…5…7…8!
8匹の中型妖獣が、扇状に彼らを包囲していた。
最悪である。今すぐにでも逃げ出すべきだと本能が告げていた。
だが。
「た、隊ちょ…」
最初に妖獣に襲われた2人の部下。
まだ、彼らには息があった。恐らく、手当てをすれば助かるだろう。
だが、今ここで自分たちが撤退すれば彼らは妖獣の群れの中に置き去りだ。
その場合は、確実に助からない。
「クソッ…」
彼らは「教主」の為なら死をも恐れぬ兵士である。
だが同時に、「教主」の役に立てず無駄死にすることを恐れる信徒でもあるのだ。
彼らも、こんな所でこんな死に方はしたくないはずだ。
「シャァァァァァー!」
しかし、状況は彼に悩むことを許さなかった。
妖獣たちが、残された男たちと“鴉”に襲い掛かる。
もはや撤退は間に合わない。
「っ、撃てぇー!」
だが、狩猟動物を象った妖獣の俊敏性は銃弾をも凌駕する。
瞬時に間合いを詰められ、引きずり倒された。
そして凶悪な牙が彼の体に突き刺さる――
「やめなさい!」
――事はなかった。
言葉と共に飛んできた水の刃が、一撃で妖獣の頭を爆散させる。
「なっ!?」
訳がわからなかった。敵であるはずの“鴉”が、彼の命を救った。
続いて、彼の残りの部下たちを襲った妖獣に対しても射撃を加える“鴉”。
「何のつもりだ、“鴉”!」
思わず声を上げる。
「お前は俺たちの敵だろうが!なぜ俺たちを助ける!?」
彼の叫びに対し、“鴉”は理解できない、と言う表情で首をかしげた。
「だって、ゴーストから人を守るのが能力者でしょう?」
「……!」
確かにその通りだ。だが、
「それは結界崩壊前の話だろう!今のお前らは人類の守護者でもなんでもない!」
そう。もう、何もかも変わってしまったのだ。
何を、何処で間違えたのかは誰にもわからない。
だが、変わってしまった事だけは事実なのだ。
「そんなこと無いですわ。私が居ますもの」
だと言うのに。この女は。
満面の笑顔でそれを否定した。
「私が守ります。人も、世界結界も。だから安心してください。この妖獣達もすぐやっつけちゃいますから」
違和感。話が噛み合っていない。
“鴉”の目を見た彼は、その理由を理解した。
どす黒い焔を宿し、爛々と輝くその瞳。
この女は、狂ってる。
この現実が見えていない。否、見ようとしていない。
彼女の時間は世界結界崩壊前――恐らくは彼女の学生時代で止まっている。
人類の守護者としての誇りと、あの日の戦友と。
彼女を彼女たらしめていた翼をもがれた時、“鴉”は思考することを止めた。
辛い現実から目をそらし、虚構の世界に逃げた。
亡くした翼がまだあると思い込み、ついには飛ぶ空を間違え迷子になった。
「お前は……」
“鴉”は着々と妖獣を始末していく。
このままなら、放って置いても妖獣は全滅するだろう。
部下に倒れている仲間の回収を指示しながらも、彼は彼女から目を離せずにいた。
ゴーストから人間を守る、と言う幻想に囚われた女。
太陽の元から逃げ出し夜を彷徨う、鴉の亡霊(ゴースト)。
すなわち――“鴉(レイブン)”
その在り方は、ひどく歪で、哀れだった。


戦場に、狩られる獣の悲鳴と狩るケモノの哄笑が響く。
特区の夜明けは、まだ遠い。

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  1. 2007/09/09(日) 21:58:15|
  2. 番外編
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