IF Another despair side:Syugeibu

あってはならない未来。 けれど、ありえなくはない未来。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

No.4

【IF Another despair side:syugeibu】Une promenade capricieuse


【20XX年 封鎖特区 横浜】

 始まりにして終わりの地、鎌倉。
 世界結界はもはや意味をなさず、
 敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。
 そのすぐ隣に存在する特区。
 終末のお隣さん、とも揶揄されるもう一つの封鎖特区。
【封鎖特区・横浜】
 この物語は、世界の終りの一歩手前で紡がれる。



【庭園勢力内・某エリア】

 木が鬱蒼と生い茂る山中を前が見えなくなるほどの荷物を抱えて上る女性が歩んでいく。
 紙袋の上でポニーテールがリズム良く左右に飛び跳ねる。
 歩き慣れていない者ならば、右も左も分からない薄暗い山を前も見ずに歩けるわけも無いのだが今歩いている彼女、フレア・タカツキには関係ないことだ。
 鼻歌でも歌いそうな勢いでスキップする彼女の足取りは迷い無く、道標すらない山道でも躓くことも無い。



 薄暗い山道を抜けると、先程までの薄暗くが嘘の様に暖かな日の当たる広場に出た。
 その広場の中心に小さな木の家が立っている。
 表で洗濯物を干し終わったのだろう。空の籠を持ったツインテールの少女がフレアの姿を見て、急いで駆け寄ってくる。

「おかえりー!」

 駆け寄り抱きつく少女。
 抱きつかれた衝撃でよろけてしまうが、何とか体勢を立て直し「ただいま。」と微笑みを返す。
 手に持っている紙袋を抱えなおすと少女と共に家の中へと入る。
 テーブルに紙袋を置くと、家主の帰宅に部屋の奥から子供達が出てきた。

「フレアママ、おかえりー。お肉、良いの買えた?」

 少年の言葉に抱きついていた少女は呆れたような顔でため息を吐く。

「レミィはそればっかりなんだから。魚も食べなきゃいけないのよ。」
「ぼく、お魚よりお肉の方が好きだもん。」
「でも、お肉ばっかりだとてつぶんっていうのが足りなくなるからだめなのよ。」
「だされたら食べるもん。あかねちゃんなんてピーマン出されても食べないじゃん。」
「た、たべるんだから! レミィのくせに反抗なんて生意気よ。」
「二人とも、止めるんだ。フレア母さんが困ってるぞ。」

 そのまま喧嘩に突入しそうな二人を男の子が止める。
 二人がその言葉にハッとしてフレアを見ると、困った顔をしていた。
 フレアの顔を見て、申し訳なく思ったのか二人とも黙って申し訳なさそうに体を縮こまらせた。
 喧嘩が収まり安堵した表情になると飛竜の方に顔を向ける。

「飛竜、助かりました。」

 感謝の言葉に照れたように頭を掻く飛竜。
 三人の中で一番年長者の為、二人の喧嘩を止めるのが日課になりつつある飛竜にとっては朝飯前なのだが、毎回止めるたびに感謝されてしまう。その感謝の言葉は何度言われても照れ臭くなるのだろうか、言われるたびにそっぽを向いてしまう。
 その様子にレミィと茜は顔を見合わせると、ばつの悪そうな顔でフレアがテーブルに置いた紙袋から食料を取り出し、冷蔵庫にしまっていく。
 黙って手伝いをする事は、二人なりの謝罪の仕方だとわかっているフレアは二人の頭を優しく撫でる。

「よし、今日のおやつは特別にケーキにしましょう。それで完璧に仲直りですよ?」

 フレアの提案に二人の歓声が起こる。
 飛竜は現金な二人の様子に呆れたようにため息を吐くが、嬉しそうな様子は隠しきれて居ない。
 そんな三人の様子に満足そうに微笑むとエプロンをつけてケーキを作りに台所へと向かった。

 これが、この家での日常風景だ。






 暖かな日差し。鳥のさえずり。のどかな風景。
 この場所だけ見ると、外の世界は全て嘘のよう。
 けれど、この山から一歩出ると嫌でも現実を見なければならない。
 この山は結界だとフレアは思った。
 山自体が庭園の勢力の中にあるため、少なくとも今は政府に狙われる事はない。
 庭園の人々もこんな不便な山にコミュニティーを作るのは不便すぎる。
 ここに居る限りは身を潜めていられるだろう。
 それが一番安全な筈だ。
 ……だが、それでいいのだろうか?
 いくら一般人としてしか生きていられないと言えど、それが一番良い道だと言えるのだろうか?
 フレアは家の前に置いてある木のベンチに腰掛けながらそのような事を思い悩んでいた。



すると突如風が舞い、花吹雪がフレアの目の前を通り過ぎる。



「お久しぶりですね。」

 ベンチには先程まで居なかった黒衣の女性が座っていた。
 フレアは驚く事も無く微笑んでお辞儀する。
 彼女の訪問はいつも突然で、今回の訪問ももうそろそろだと思っていた為、心の準備は万全だ。

「そうですね、お久しぶりです。ヒカルさん。」

 フレアの言葉に微笑むと、軽くお辞儀を返す。
 何時もはつけている帽子を外すと膝の上に置いた。

「最近は名前で呼ばれることが少なくなりましたから、フレアさんに名前を呼ばれるとなんだか昔に戻ったような気分になります。」

 ヒカルの言葉に少し顔が曇る。
 それほど昔の話ではないが、今ではもうはるか彼方の出来事だったような気分だ。
 そんなフレアの気持ちなど露知らず、ヒカルは「つまみ食いも良くされましたよね。」などと、昔の思い出話をのほほんと話している。
 すると、突然ヒカルがあっと何かを思い出した声を出した。

「そういえば、最初に名前を呼んだ時は側近がフレアさんに刃を向けましたよね。あの時は申し訳ありませんでしたね。」

 ヒカルの謝罪の言葉にフレアは気にしないでくださいと苦笑いしながら当時を思い出す。
 ヒカルとフレアが再会した時、今は膝の上に乗せているヴェール付きの帽子を被っていたため、顔が見えなかった。
 その上、彼女の名前を呼んでいる(と、言っても本人は呼んでも呼ばなくてもどちらでも良いらしいのでそこの価値観は庭園の宗徒の価値観なのだろう)人物は少ないので、突如見知らぬ女が大事な教主様の名前を呼んだら怒るのは普通の事だろう。(それが普通なのかはよくわからないが)





「子供が一人、増えましたね。」

 しばらくはお互い言葉を交わすことなく過ごしていたが、ヒカルが話を切り出した。
 ヒカルの言葉に悲しそうな表情を見せると小さく、独り言のような調子で話し出した。

「この間、町で泣いているのを見つけて連れて帰ってきたんです。」

 今でこそすっかり馴染んでいるが茜は最初、無口でまったく言葉も交わそうとはしない少女だった。
 食事にもまったく口をつけず、触れようとするともの凄い形相で睨み付けて噛み付いてくるほどで、まともに近づくことすら出来ない状態だった。
 レミィの純真な誠意によって少しずつ、心を開いてくれたのだ。

「そうですか。そのような事があったのですね。」

 話を聞き終わると、ヒカルは空を見上げた。
 そんなヒカルの表情を見つめる。
 やはりその瞳は暗く淀んで……いや、淀んでいるのではない。
 何も無いのだ。
 今は昔のヒカルと同じような表情だが、その瞳には小さく、だがはっきりと虚無が見えた。
 あの学園に居た頃には考えられなかった虚無の瞳。
 戦闘が無い状況でこれならば、戦闘では果たしてどうだろうか?

「……さん? フレアさん?」
「……え?」

 どうやらぼんやりしていたようだ。
 こちらを見て、心配そうにしているヒカルと目が合った。

「体の調子が悪くなってしまいましたか?」

(いけないいけない。何時の間に意識を飛ばしていたのだろう?)

「いえ、大丈夫です。最近はかなり調子が良いんです。」
「そうですか。それを聞いて安心しました。」

 フレアの言葉にヒカルは嬉しそうに微笑む。

「そう言えば、『彼女』は元気でいますか?」

 突然の言葉にフレアは今、何を言われたのかまったく気がつかなかった。
 思わず目を見開きそうになる。
 何を言っている?
 子供達の事を『彼女』などとは言った事がない。
 まさか、『彼女』とは『カノジョ』の事か?
 いや、この人には言っていないはずだ。
 庭園に保護された時も感づかれるような事も無いように細心の注意を払ったつもりだったのに。
 嫌な汗が背筋を伝うのを感じると、生唾を飲み込んだ。
 ヒカルは、フレアの様子に何故そんなに驚いているのかわからないと言うような表情をしている。
 その表情に確信する。
 彼女には自分の隠し事など、お見通しだったのだと。
 いや、むしろ隠していた事すら気がつかなかったのだろう。

「ヒカルさんには隠し事はできませんね。」

 思わずそう呟く。
 ヒカルはその言葉が聞こえたのか聞こえていないのか優しく微笑みながら首を傾げている。
 半開きになっていた唇を閉じ、ぎこちなく微笑みを作った。

「元気にしていますよ。やかましいくらいです。」

 フレアは隠しても無駄だと分かったので仕方なく返事を返す。
 ヒカルは「そうですか。」と嬉しそうに微笑む。
 だが、その微笑を消すと真面目な顔をした。
 ぼんやりとフレアは虚無が濃くなったなと瞳を見ながら考える。

「フレアさんは、やはり庭園にいらっしゃる気はありませんか?」

 穏やかな空気が消えた。
 フレアも居住まいを正して真剣な表情になる。

(答えを間違えたらおそらく消されますね)

 重苦しい間が辺りを包む。
 フレアは自分が上手く息が出来ていない事に気がついた。
 まるでエベレストの山頂になんの前触れもなく連れて行かれたような感覚だ。
 体が震えないのが唯一の救いだ。
 早く何か答えなければ。何を言えば良い? 何が彼女にとっての正解だ?
 焦りが思考を鈍らせ、何を言えば良いのかが分からなくなっていく。
 分からない事の焦りが更に口を重くさせる。
 だが、子供達のためにも何かを言わなければ。そう思い、凍ってしまったように動かない唇をこじ開けた。



 突如大音量の目覚まし時計のような音が響き渡る。



 いきなりの大音量に心臓が飛び跳ねる。
 その瞬間、体が締め付けられたような感覚が白昼夢の様に消え去った。
 早鐘のように打つ心臓を落ち着かせるため半開きになった唇から大きく肺に息を吸い、なるべく気がつかれないように細く息を吐く。
 無意味な行為かもしれないが、しないより幾分かはマシだ。
 意を決してヒカルと目を合わせ、なるべく不自然にならないように微笑を作る。

「はい。それに、今の私では役には立たないと思いますよ。」
「たとえ戦闘を行うという好意が無理でも、デスクワークや戦略などの多方面で十分フレアさんは役に立つと思うのですが……やはりダメですか?」

 ヒカルの言葉に静かに頷き
「私の幸せは子供達と穏やかに過ごす事ですから。」
 と答える。

「……そうですか。それなら仕方がありませんね。」

 ヒカルは残念そうに呟き、立ち上がった。
 一瞬、嫌な予感がフレアの頭を過ぎ去ったがどうやら杞憂だったようで、ヒカルは帰り支度を始めた。(と、言っても服についた埃と砂を払う程度だが)

「ケーキ、食べていきませんか? 焼きあがったみたいですし。」

 フレアの誘いに申し訳なさそうに断る。
 どうやらフレアの顔色が悪い事に気がついたようだ。

「今日は久しぶりに来たのに変な話をしてしまってごめんなさいね。久しぶりに楽しく遊んだ後だったので、少し気持ちが緩んでしまっていたみたいです。今度、ケーキをお詫びに持ってきますから、その時は是非茜さんとも会わせて下さいね。」

 なんとか保っている微笑で頷く。
 遊び? ダンスでも踊ったのだろうか。
 ヒカルの踊りは、昔あの学園で見た事があったなとまだ霞んでいる思考の中、記憶が甦る。
 フレアの様子にヒカルは申し訳なさそうに微笑むと、手に持っていた帽子を被り、来た時と同じく花吹雪と共に消えた。



「なんとか、持ちましたね。」

 呟くように言うと大きく息を吐く。
 それと同時に体が小刻みに震え始める。
 いつの間にか握ってしまった掌を開くと爪が食い込んでいたため爪の跡がくっきりと残っており、長時間握っていたため汗でじっとりと濡れてしまっていた。
 彼女の前では心配をかけさせたくなかった為なんとか押さえていたが、居なくなった瞬間気が抜けてしまったようで、額にも大量の脂汗が浮かぶ。
 彼女の持つ力。
 いつもは制御している力が、少し緩んでしまった。
 彼女の言うとおりそれだけだろう。
 だが、おそらく一般人ならあれだけで呼吸困難になるだろう事をフレアは肌で感じ取った。
 あれだけの『チカラ』が少し緩んだだけ?
 空気に絞め殺されるような感覚が蛇口から漏れた水滴だとしたら、蛇口を捻りきった場合どれほどのチカラが噴出すのか……想像しただけでも背筋が寒くなる。
 まだ火打石のように鳴る歯を無理やり噛み合わせ、もう一度鼻から胸いっぱい息を吸う。
 しかし、他の子達が居なくて良かった。
 もしも、此処に居たらどうなっていた事か。

「運が良かった……みたいですね。」

 その呟きに答えるように、木々がざわめいた。
スポンサーサイト
  1. 2007/09/14(金) 22:19:24|
  2. 本編
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<Le.10 | ホーム | No.3>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://ifadsides.blog118.fc2.com/tb.php/19-742da7c8
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

カテゴリー

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

FC2カウンター

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。