IF Another despair side:Syugeibu

あってはならない未来。 けれど、ありえなくはない未来。

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Le.10

【IF Another despair】反逆者、現る




これは語ってはいけない物語
これは聞いてはいけない伝承
これは知る者など居ない奇譚

既に語られた物語があるとしたならばという仮定の上にあってさえ
それは前略とされ全略とされるであろう知られざる逸話

それでも知る勇気があるのかな?


――ならば聞け、"我が弟の友(ノウリョクシャ)"よ――


【20XX年 封鎖特区横浜】

――ジジ…ジ……ガタン、ガン…カチャリ、カチカチ…

コンクリートの壁がなかば崩れ落ち、高く設えられたトタン屋根には大きな穴が開き、埃と雑多なガラクタばかりが堆く山をなしているだけの廃工場にその音は響いていた。
しかしこの場所が工場であった事を示す機械の類は、ボルトを外され外装板を剥がされパイプを奪われ計器の類は持ち去られて無残な姿を晒し、この廃工場にふさわしいただのガラクタと成り果てているのだが。

「そろそろ、誰か気付いているかもしれないね」

見る者が居ればぞっとしたであろうほどの冷たい笑みを浮かべた男が、屋根の大穴から白み始めた空を見上げていた。その手にはペンチに似てはいるが何やら不思議な形状をした工具と、そして薄明かりを受けて鈍く光る眼鏡があった。




少し時を遡って、ここは横須賀市政府管理エリア内の『管理計画研究所』


「なるほど…………ん?」
「室長、どうかしましたか?」
いつも冷静な男が珍しく報告書の束を捲る手を止めたのを見て部下の男が問い掛けた。
今回の制圧作戦では特に危険度の高い能力者も現れず、目新しい能力を見て取る事もなかったので報告書自体はいつもより薄くなっている。
目を留める事があったとすれば、特区内部の能力者による自治の成果なのかゴーストを見かけるのが減少してきている事と、数に任せた特攻が珍しく功を奏して幾人かを倒す事に成功した事くらいだろう。それとも、もしや自分の作成した報告書に何か不備でもあったのだろうか、と部下はしきりに思案顔だ。

「……あ、あぁ。いや、このところ報告でゴーストを見かけないと思ってね。」
相変わらず報告書に釘付けの視線はある一点を見据えたままに、部下の問いかけに答える男。
「あぁ、その事ですか。」
明らかにホッとした顔になった部下は上司の様子のおかしさも真意も何も知りもせずに語りだした。

「こっちには情報は余り流れてきませんけど……エリアによっては組織的な自治が行われているそうですよ。それでゴーストの数が減っているのではないかって言うのがもっぱらの噂です。でも、組織構成については第一諜報部もまだ詳しくはつかめていないみたいで…あ、あっちに居る大学の同期から聞いたんで信憑性はあると思います。」
「………そうなのか、ありがとう。もう下がっていいよ、ご苦労様」
「はい、失礼します」
いまだ紙面から顔を上げない男に向かって一礼し、部下の男は第一ラボを出て行った。


「………光也。…どうして……」
男の目を捉えて離さなかったのは、報告書の最後尾に記載されていた補足データだった。


――――尚、今回の管理計画においてデータ不足により未照合な対象は以下の3名である

【No.0276X-1n】20台後半と思しきメガネをした男:死亡 現在鋭意照合中
身元確認のてがかりになりそうな所持品はナイフのような武器のみ。
柄部分に小さく「Kouya」と読み取れる刻印があり、これが対象の名ではないかとみて現在データバンクより合致者の洗い出しを続けている。
以下に画像データを添付する――――


ここ数年会っていないとはいえ、画像データが荒いとはいえ、自分の弟を見まちがう事は無い。
全身どこもかしこも土と血に汚れてはいるものの、幼い頃から色素が薄くうっすらと赤みを帯びた茶色の髪はよく羨んだものだし、この銀ブチの四角いメガネは高校に入る時に僕が買ってあげたものだ。
「見間違えるはずないよ……ねぇ、光也……」
暫くしてようやく顔を上げた時には、男の顔にはいつも以上に冷徹な強い意志をもった笑みを滲ませながら行動を開始した。

部下達はいやに慌しく研究資材の調達などを運びラボと外部を行き来する上司を見ても、またいつもの『何か思いついた病』だろうというくらいにしか思わずに淡々と各自の仕事をこなしていた。
第一ラボを自室としてしまっていることからも分かるように、ここでは室長がほぼワンマンで開発を行っており、彼は何か思いつけばすぐさま行動を起こしてラボに篭もってしまうのだ。だから彼の部下達が今日の彼の行動を見咎めなかった事は自然な流れではあるが不運――いや彼にとっては幸運――な事だっただろう。



そうして彼が研究データや資材に加え実験機器までをも持ち出したまま姿を消した事が発覚したのは、それからたっぷり19時間も経過した後の事であった。
先の制圧作戦において死亡せしめた抵抗勢力能力者のうち未照合であったNo.0276X-1nが『紅月・光也』すなわち彼の弟であると判明した為、上層部が彼に出頭を要請したのだ。その要請を受けて第一ラボに足を踏み入れた者たちが目にしたのは、綺麗に片付いたと言うよりは何も無いだけのデスクと、大型の実験機材だけが残されたガランとした棚、そして明らかに何冊かのファイルが持ち出されたとわかる歯抜けになったキャビネットだけだった。

それから30分も経たぬうちに所内には戒厳令が布かれ、秘密裏に全所員の厳しい身元確認が行われる事となった。




【20XX年 封鎖特区横浜】エリア:不明


海に突き出した元工業地帯にある廃工場に、1人の一般人が住み着いていた。
日々ゴーストが徘徊し能力者であってすら強者が弱者を蹂躙する事で生き延びている、そんな荒廃した封鎖特区の中でも打ち捨てられた場所にも関わらず…いかにも仕立ての良さそうな黒のスーツを纏い白衣を羽織っている。

「……この手が光也を殺したのだとしたら……」

その手に握られているのは銀色に輝く細長の四角い眼鏡だった。彼の弟の所持品として押収されていたものを研究という名目で一時拝借したまま持ち出してきた『遺品』である。
だが今はそこには兄の手による改造が施されていた。素通しのレンズの上に対能力者装備として極薄型の衝撃防止素材を張り合わせてあるのだが、試作段階ではあるものの限りなく透明度を上げることに成功した為見た目はほとんど普通のメガネと変わらない。

「……この手に贖罪を……」
そう言って静かに頭を垂れ、そのままゆっくりと手にしていたメガネをかける。

「……光也が選んだ地で……光也が見たものを僕も……」
そして今度はそのまま顔を上げて天井、いやそこに空いた大穴から空を見上げる。

「……何も為さないまま会う訳には行かないからね……」

温度の無い微笑をたたえた顔で虚空に向けてそう呟くと、ゆっくりと傍らの埃だらけの作業台に向き直り、無造作に広げられた紙の束へとレンズ越しの視線を彷徨わせた。

「ささやかだけれど大いなる反逆の始まりだよ。」


――離反という消極的利敵行為を手始めに反逆を開始する
    "我が弟の友(ノウリョクシャ)"よ、是より我は敵に非ず――
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  1. 2007/09/15(土) 02:35:13|
  2. 番外編
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