IF Another despair side:Syugeibu

あってはならない未来。 けれど、ありえなくはない未来。

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Le.14

【IF Another despair side:syugeibu】天まで届けとばかりに彼女は笑った。


それは、最悪の可能性。
あってはならない「もしも」の話。
けれど、ありえなくはない未来。
人類が銀色の雨の前に敗北した場合のお話――。

【20XX年 東京某所】
複数の影が、暗闇の中を蠢いていた。
各々の前にあるディスプレイの青白い光が、下から彼らを照らしている。
全員が陰鬱な表情をしていることも合わせ、まるで出来の悪い幽霊の戯画が並んでいるようだった。
「では、『B計画』第二段階経過報告を始めさせて頂きます」
幽霊の一人が口火を切る。
彼の胸には「Dr.Hirama」と書かれたネームプレートが見えた。
ディスプレイが切り替わり、一人の能力者を映し出す。
「現在、被験体への処置はフェイズ31、強度5Aまで終了。以降の処置は医療部のカウンセリングの後に行う予定です」
画面の中で、彼女は円形のフィールドのような場所に立っていた。
まるで中世のコロシアムのように、フィールドの対面に鉄格子付きの出入り口がある。
「詠唱銀の拒否反応は実用レベルで収まっています。メンタル面の管理を十分行えば、適用体を長期間自律機能させることも可能でしょう」
他の幽霊……政府高官や自衛隊幹部は、無表情に彼の話を聞いている。
『B計画』、正式名称【銀の人体影響計測計画】は、もともとRISTと呼ばれていた研究機関から端を発したプロジェクト群の一つである。原型の研究、残留思念と詠唱銀との関連性を追及する試みは当時、世界結界維持の為に戦う者たちの大きな助けとなった。
詠唱兵器の改良。ゴーストの分類と分析。アビリティの解析。
これらの研究は偉大な研究成果を幾つも残したが、同時に様々な闇も残した。
その闇の一部を継ぐもの。それが平間博士であり、『B計画』であった。
「……では、被験体の実用試験の記録をご覧頂ください」
モニターに目を移す。
先ほど移っていた出入り口に変化が起きていた。
重たい鉄格子がゆっくりと、上がっていく。
開いた向こうの闇から、染み出すように「何か」が姿を現した。
「あれは……亡霊戦車か。あんなものを持ち出して戦わせる気か」
失笑を零したのは国防長官。
それも無理の無い話だろう。
亡霊戦車は、もともと自衛隊がゴーストの兵器転用を目指して開発した戦闘用のゴーストである。
結局制御方法が確立できず計画は破棄されたが、試作されたゴースト数体は廃棄処分されずに残った。
その中でも、亡霊戦車の戦闘力はA相当。
本物の戦車と同等の防御力と攻撃力を持ち、能力者にも有効な打撃を与える事が出来る存在は、実用化されれば大きな戦力になるはずであった。
BやCランクの能力者単体では歯が立たないほどの強力なゴーストである。
対峙する能力者――“鴉”はBランク。
勝てるはずが無い。なすすべも無く蹂躙されるのが関の山だろう。
鎖を引きずり、ついに全貌を現した亡霊戦車は、その砲身を無力な獲物に向ける。
『これよりB計画戦闘実用試験を行う。準備はいいか?』
『準備、全て完了です』
『よろしい。……“鴉”、聞こえるか?目の前のゴーストを撃滅せよ。繰り返す、目の前のゴーストを撃滅せよ』
それが、獣の手綱を放す合図。
次の瞬間、二つの事が同時に起こった。
一つは、亡霊戦車の砲身から砲撃が放たれたこと。
もう一つは、“鴉”がその場から横っ飛びに飛びのいた事。
『……!』
地を震わす轟音が鳴り響く。
彼女は素晴しい反応速度を見せたが、至近距離から放たれた砲弾を回避するには不足。
“鴉”の左腕を砲弾が掠めていく。
服と皮膚が巻き込まれ、鮮血が飛び散る。
掠めただけでこの威力。
本来歩兵が戦車にかなう道理はないのだ。
初撃を回避した“鴉”は、何とか懐に入ろうとかく乱移動を繰り返すが、戦車もバックや旋回を駆使して彼女を補足し続ける。
さらには砲塔上部の機関銃が“鴉”の接近を完璧に阻む。
程なく彼女は防戦一方の立場に立たされた。
走る。跳ぶ。伏せる。急激な方向転換。狙いをぶれさせるジグザグ機動。
遮蔽物の無いこのフィールドでは、動き続けることでしか回避する事が出来ないのだ。
もちろん、回避し続けるだけでは相手を倒すことは出来ない。
モニターには、着実に“鴉”の動きが鈍って行く様子が映し出されていた。
細かい被弾は数え切れず、戦闘服は既に血染めの状態になっている。
「この様に、通常のBランク能力者では、Aランクのエネミーを撃破する事は出来ません」
平間博士は、分かりきった事を改めて説明した。
居並ぶ政府高官たちも、無言で続きを促してくる。
「ですが、B計画被験体の第一段階開放により、それを凌駕する事に成功しました」
画面の中では、“鴉”と亡霊戦車が互いに距離を離したところであった。

【20XX年 エリア・イソゴ 平間博士の報告の数日前】
武士の立会いのように睨み合う“鴉”と亡霊戦車。
そこに、再び声が響く。
「ふむ、この程度か……。では実験をフェイズ2に移行する。『ブースター』を使用せよ」
その指示に“鴉”は一瞬、肩を震わせた。
だが彼女は、流れるような動作で腰のポケットから銀色に輝くカプセルを取り出し、そのまま口に含んだ。
相対する亡霊戦車に視線を固定したまま、奥歯で噛み潰す。
詠唱銀をベースとした複合薬物が、速やかに“鴉”の体内に吸収されていく。
「……っ、あ」
ざわり、と周囲の空気が変わる。
息苦しいほどのプレッシャー。
どこからか、異音が聞こえてくる。
「あ、ああ……」
“鴉”の体は小刻みに震え、足元はおぼつかなくなっていた。
気配で危険を察知したのだろう、亡霊戦車が砲撃を放つ。
もしこの地縛霊に感情などと言うものがあるなら、間違いなくこの砲撃は『恐怖』によるものだろう。
それほどまでに、“鴉”から放射される気配は異様だった。
彼女は目を見開いて、飛来する砲弾を見つめたまま動こうとしない。
「あああああああああ」
壊れた蓄音機のように同じ音を繰り返す。
体の震えは、もはや痙攣と言っていい状態になっていた。
その彼女の左半身に、砲弾が直撃する。
轟音。
着弾した砲弾は、“鴉”を巻き込んで盛大な土煙を上げる。
舞い上がる砂の中に赤いものが混じっているのは気のせいでは無いだろう。
どんな能力者でも、一撃で戦闘不能……否、即死してもおかしくないダメージのはずだ。
だが、
「ぁ……あ……ぁぁ」
収まりつつある土煙の中から、歩み出てくる影。
時折ふらつきながら、“鴉”が現れる。
砲弾が直撃した左半身はごっそりと失われていた。
首は支えを削られ左に傾き、左足は千切れていないのが不思議な状態だ。
胴の破壊面と唇から、滝のような鮮血が零れ落ちる。
被っていたベレー帽は、吹き飛んでどこかに行っていた。
「ぁはははははははははは!」
哄笑。
完全に破壊されたはずの肺で、天まで届けとばかりに彼女は笑った。
残った右手のナイフ形詠唱兵器が、励起光と共に全力で稼動を始める。
キチキチという異音。
異様な気配は、今やはっきりと『異形』の気配になっていた。
亡霊戦車が次なる砲撃の体勢に入る。
だが、今度は“鴉”の方が速かった。
大きく抉られた胴体から、燐光の白い輝きが噴出する。
光がねじれ、よじれ、絡み合い、急速に彼女の体を再構成していく。
失われた部位を再生し、血流を再開させ、ご丁寧に戦闘服まで修復する。
白燐蟲。
白い光の正体は、“鴉”の使役するこの蟲だった。
能力者の基準から見ても異常な回復速度と回復量で、彼女の肉体は再生した。
そのまま、亡霊戦車に向かって突撃を敢行する。
先ほどとは比べ物にならない速度で距離を詰める“鴉”。
人体の限界以上の機動に、足の腱がぶちぶちと音を立てて断裂していく。
だが、次に足を下ろした時には既に回復している。
戦車が主砲を発射したのはこのタイミングだった。
「あはっははははははははは!」
真正面から発射された砲弾を、鮮やかな跳躍で回避する。
その目は血走り、伝承にある狂戦士の如く真っ赤に染まっていた。
そのままの勢いで亡霊戦車の懐に入り込んだ“鴉”は、手にしたナイフを一閃。
美しい円弧が、主砲の長大な砲身を根元から切り飛ばした。
痛みを感じるのか、大きく車体を振るわせて後退する亡霊戦車。
反撃の機関銃が“鴉”を襲うが、当たった端から傷口が修復される。
――亡霊戦車が主砲を失った時点で、決着は付いていた。
砲撃が来なければ、彼女は足を止めて射撃を行える。
一撃。
白燐蟲、そして『ブースター』によって限界以上の力を引き出された水刃手裏剣が、易々と戦車の正面装甲を突破。
内部を滅茶苦茶にかき回す。
二撃。
砲塔上部を通過した水刃が、機関銃をもぎ取る。
三撃。
右履帯上部から入った水刃は、そのまま駆動輪を次々と破壊。駆動系をズタズタにする。
四撃、五撃、六撃――
計十二発にも及ぶ射撃を受けて、亡霊戦車は完全に沈黙した。
そして。
「あはは……は、は……」
戦車の撃破を確認すると同時、彼女は仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。

【20XX年 東京某所】
「……以上。この実験の成功により、B計画第一段階、通称『Berserker』の調整完了とします」
平間博士はそう締め括り、亡霊達を見渡した。
「よくやってくれた。『Berserker』製造の成功は素晴しい成果だ。これを量産できれば、戦況が膠着している特区戦線も我々優位に傾くだろう」
「うまく運べば各封鎖特区に配備出来るかもしれん」
「これで他のRIST計画群の失態を取り戻せる」
まったく表情を変えないまま、口々に彼を褒め称える役人たち。
それが収まると、それまで沈黙を保っていた男が口を開いた。
与党の大物議員。平間博士の後ろ盾でもある。
「よろしい。平間博士、引き続きB計画を第二段階に進めたまえ。優秀な兵士の生産も成果だ。だが、それ以上に我々に必要なのは、絶対的な『力』だ。あの忌々しい“教主”を滅ぼし、特区の不穏分子どもを纏めて黙らせるだけの『力』がな」
「承知しております」
彼の答えに、議員はうなずいた。
「君には期待している」
そういって大物議員は退席し、亡霊たちも次々に去っていった。
一人残った博士は資料を片付けようとして、点けたままだったモニターに目を止める。
そこには、天を仰いで放心したように血の涙を流す“鴉”が移っていた。
僅かに狂気を孕んだ虚ろな瞳と、博士の視線がしばし交錯する。
「『力』、か……」
振り払うように視線を外して、彼はモニタの電源を切った。

特区を覆う暗雲は、日増しに濃くなっていく。
美しい蒼穹は、未だ戻らない。

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  1. 2007/09/25(火) 23:26:42|
  2. 番外編
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