IF Another despair side:Syugeibu

あってはならない未来。 けれど、ありえなくはない未来。

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Le.16

【IF Another despair side:syugeibu】誰がクックロビンを殺したか


【20XX年 封鎖特区 横浜】

 始まりにして終わりの地、鎌倉。
 世界結界はもはや意味をなさず、
 敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。
 そのすぐ隣に存在する特区。
 終末のお隣さん、とも揶揄されるもう一つの封鎖特区。
【封鎖特区・横浜】
 この物語は、世界の終りの一歩手前で紡がれる。


「なんだかなぁ……」
 ぷかり、と白い輪っかを空に向かって吐き出して、金髪の青年はぼやいた。
 空へと上っていく真っ白なループはまるで天使の円冠のようで。『政府』のマークが染め抜かれた輸送車両にもたれてぼんやりとそれを眺める青年は、まだ少年の名残を残した美貌にさもつまらなさげな色を浮かべた。
 輸送車の周りには大勢の人間が倒れていた。老若男女の区別無く、顔一杯に苦悶の表情を貼り付けた人々は、一様に自分の喉を自分の手でかきむしるかのように押さえたままのそれは奇妙な姿勢で倒れている。
 その全てが、一人の例外も無く死んでいた。
 大きく開かれた口は真っ赤に染まり、彼らの倒れ伏す地面もまた紅(アカ)い。
 まるで、あの朱(アカ)い空が落ちてきたかのように。
 一面のアカ。
 その中でただ一人だけ生きている青年は、地獄絵図の如き惨状になど気が付いてもいないかのように、暢気な風情で煙草を燻らせているのだった。しかしそれも当然と言えば当然である。何故ならば、教団の兵士を装い「政府からの配給車両を強奪した」と偽り、この居住区に住まう人々を配給食糧に混入した毒物で虐殺せしめたのは、まさにその青年に他ならなかったのだから。
 しかし、そんな自身の計略が生み出したおぞましい戦果を、無慈悲な虐殺者は不満げに見下ろす。
「何人か逃してしまいましたか……」
 積み重なるように倒れ伏す骸の山は、前もって調査しておいた人口に比べて少なすぎる。
 おそらくは異変に気付いた者が彼の魔手にかかるより早く逃げ出したのだろう。文字通りの“皆殺し”を目論んでいた青年にとって、この恐ろしい光景は単なる片手落ちの結果にしか映らないのだ。
「うーん、やはり一人では無理があるのでしょうか……」
 吸い終えた煙草を指で弾くと、青年は輸送車の運転席に乗り込んだ。
 隣に座る、リアリティを出すために彼自身の手で射殺した政府兵士――その兵士は青年の作戦の事など何一つ知らされていなかった――の死体を助手席から蹴りだすと、エンジンをスタートさせる。
「やっぱり……もうちょっと手駒がいりますね」
 青天の色を宿した瞳に次なる殺戮を夢想しながら、青年はアクセルを踏み込んだ。

 強行仕様のタイヤに轢き潰されていくナニカの音をBGMに、金の髪の“悪魔”は静かに微笑んでいた。


††††††††††††††††††††††††††††††††††††††


  Who killed Cock Robin?    誰が駒鳥を殺したの?
  I, said the Sparrow,     私よ、と雀が言った
  With my bow and arrow,    私の弓矢で
  I killed Cock Robin.     駒鳥を殺したの。


――数日後、特区管理機関イソゴ基地

 無機質な廊下を二人の男が歩いている。
 一人は制服を隙無く着込んだ自衛官らしき男。階級章を見る限り一佐相当官なのだろう。
 もう一人は、唇を固く引き結んだ男のやや後ろを歩く僧衣服(カソック)に身を包んだ長身の男。
 まだ少年らしさを残した男の顔立ちは、どちらかと言えば青年と呼んだ方がしっくりとくる。
 制服を着た男は政府直轄の能力者特殊部隊、イソゴ方面の責任者だった。
 僧衣服を着た青年は、とある戯曲に登場する狩りの悪魔の名を通称に持つ能力者だった。
 金色の髪の青年はいかにも女性受けしそうな甘やかな微笑を湛えて、楽しくて仕方ないと言わんばかりの朗らかな口調で男に向かって何事かを話しかけている。一方、話かけれられている男は青年の言葉など聞こえていないかのように口をつぐみ、早足に歩を進めていく。
 もっとも、それも無理からぬ事かもしれない。青年が先程から口にしているのはこの国の言葉ではない。英語――それも訛りが酷い上にスラング交じりで、同じ言語圏の人間でさえ下手をすれば首をかしげかねないほどに聞き取りにくいものだったのだから。
「Shut up,ZAMIEL.」
 いい加減耳障りになったのだろう。
 低く鋭い男の制止に“悪魔(ザミエル)”の名で呼ばれた青年はいかにも陽気な仕草で肩をすくめた。
――黙れ、悪魔が……ねぇ。
 それきり前を向いてしまった男は気付かなかった。
 それまでは人懐っこい無邪気な少年のようだった微笑みの種類が、いつの間にか変わっていた事に。
――何を言われてたかも判ってないくせに、的確じゃあないですか。
 にんまり、と。
 童話に出てくる人を煙に巻く猫のように、“悪魔”は男を嘲う。
 彼は本来訛りの無い美しいクイーンズイングリッシュで話す人間だ。勿論その気になれば日本人からして理解し易いアメリカンも話せるし、それどころか日本語だって流暢に扱える。それをあえて聞き取り難い訛りをつけて喋っていたのは、その内容を男に理解させないためであった。
 この青年はさっきからずっと、この長い廊下を歩いている間中ずっと、聞くに堪えない罵詈雑言どころか耳が腐りそうなほどの悪口の限りで男を罵り続けていたのである。なんら恥じる事無く満面の笑みを浮かべて、さも楽しげに、穏やかな微笑と共に、男の持つ尊厳を汚物の付着した靴底でグシャグシャに踏み躙るような言葉を投げかけ続けていたのだ。
 なのに、男は自分が何を言われていたのかなど露知らず、自分の前を歩いていく。
 そんな男の愚かさを、青い瞳の“悪魔”は嗤う。

 やがて男は一つの扉の前で立ち止まった。
 カードキーとパスワードの二重保護(ダブルセキュリティ)によって厳重に閉ざされた扉が開く。
 男が先に入ったのを確認して、“悪魔”もその部屋に踏み入った。
 薄暗い部屋だった。
 明るい廊下を歩いてきた分、尚更そう感じる。
 独房か取調べ室かという風情の、酷く殺風景な空間。あるのはベッドと椅子ぐらいのもので、調度品の類はおろか窓すらない。見上げてみれば、押し潰すような閉塞感を与える低い天井で古びた電灯が余りにも控え目な自己主張に勤しんでいた。
 檻……いや、これはどちらかと言えば、“籠”かな。
 一通り眼をやって、青年は静かに結論付ける。
 この空間は「出さぬため」のものでは無く、ただの「入れ物」でしかない、と。
――で、これが駒鳥(クックロビン)という訳か。
“悪魔”の視線の先、空虚な鳥篭の真ん中、唯一つだけの椅子に腰掛ける一人の女が居た。
 年は20代後半だろうか。
 見かけだけならもう少し老けて見えるかもしれない。
 長い黒髪は既に瑞々しさを失って久しく、
 その手は意味も無く手首に巻かれた虹色のミサンガを弄っている。
 入り口の前に立つ二人の男に気付いてもいるのかどうかすら判らない。
 まるで死を前にした病人か、理性を手放した狂人のような雰囲気。
 生きているのが不思議なほどに生気を感じられない佇まい。
 実は精巧に作られた人形なんだ、と言われたら信じてしまいそうである。
 そして、なによりも――
「へぇ……これはこれは」 
 青年は思わず呟いていた。
「おい、“レイヴ――ッ!?」
 じっ、となんの遠慮も無く女を凝視する青年の隣で男が口を開こうとした瞬間、まるで毒蛇の顎のように伸びてきた黒い手が、一切の手加減を欠いた力で彼の顔を鷲掴みにしていた。そのまま、獣が牙を獲物の肉へと潜り込ませるように、ギリギリと締め上げられる。
 思わぬ激痛にパニックになりかけた男だったが、軍人として体に覚えこませて来た訓練が咄嗟に懐に収めた拳銃へと手を伸ばさせ、
「Shut up,birdbrain.」
 部屋を満たす薄暗がりの中、爛と燃える蒼碧の『悪意』と眼が合った。
「それとも日本語で言わないと判りませんか?」
 ぞろり、と悪意が動く。
 煮え滾る腐泥を思わせる濁った喜悦を宿した瞳が、真円を描く。
 眼球と眼球が触れ合いそうな距離で、青い目の“悪魔”が嗤う。
「少し、黙って、いろ――まぬけ」
 心臓に氷の杭を打たれたような怖気と共に男の体が解放される。
 倒れ込むように壁際まで後退して、そこでようやく彼に正常な思考が戻った。
 最初に感じたのは強烈な怒り。殺してやる、と憤怒のままに銃把に手をやろうとし、そこで止まる。男の中の冷静な部分が、戦士としての本能が告げていた。待て、と。おかしいぞ、と。その違和感に思考を向ければ、答えはすぐに見付かって、途端に男の憤怒は戦慄に塗り替えられた。
 能力者と行動を共にする際の常套として男は密かに対能力者装備を身に付けている。故に青年の能力者としての身体能力は一般人レベルにまで抑えられている筈なのだ。なのに、あの力は何だ。頭蓋骨を握り潰さんばかりの膂力は、どこから出た。
 その答えは、すぐ目の前にあった。
 布地に余裕を持たせた衣装に隠されていてつい気付けなかったその答え。
 僧衣服(カソック)の下で軋みをあげる、細く鍛えられ束ねられた弓の弦を思わせる強靭な筋肉群。
 男はこの段になって、ようやく自分の考え違いを悟る。
 能力者など、能力さえ使えなければ取るに足らない――そんな事を誰が決めた?
 判る。男もまた兵士、戦いに生きる者だからこそ判る。
 目の前にいる優男がその気になれば、自分など一切の抵抗も許す事無く素手で惨殺できるだろう、と。
 完全な敗北に男が膝を突く頃には、青年はもうその視線を女へと戻していた。
 男の事など文字通り眼中に無いように。
 ただ、じぃっ、と女を見る。観る。診る。看る。視る。
 視線は蛇のように。
 なにか酷く厭らしい粘液に塗れた蛇のように、女の全身を這い回る。
 潤いを失った長い髪を。
 そこから覗く乾いた唇を。 
 今なお白く輝くうなじを。
 衣服を押し上げる胸の膨らみを。
 艶やかにくびれを描く腰周りを。
 滑らかな曲線で繋がる下腹部を。
 しなやかに伸びる脚を。
 そして、なによりも――力無く開かれた瞼から垣間見えるアメシストの瞳を。
 文字通り、脚の指先から頭の天辺まで。
 舌を這わすように、“悪魔”の視線が舐めていく。
「――素晴らしい」
 感極まったように、青年は我知らず零していた。
 完璧だ。
 一体いかなる絶望が彼女をここまで打ちのめしたのか。
 どんな不条理がこの女性をこれほどまでに壊してのけたのか。
 その時、“悪魔”は真摯なまでの熱意を持ってその理由を知りたいと思っていた。
 嗚呼、そして。
 その凶器(ゼツボウ)を、彼女の胸の奥に開いた傷痕へと捩じ込んでやったら。

――この女は、どんな声と表情で泣いてくれるのだろうか。
 
 今すぐにその胸の内を暴いて甘美な苦痛を啜り上げてやりたいという衝動を押さえ込む。
 自制には、驚くほどの精神力を必要とした。
 まだ、駄目だ。この女にはやってもらう事がある。手駒として動いてもらわなくてはならない。
 だから――それまでは、お楽しみは取っておかないと。
 ともすれば興奮に震えだしそうになる手足で、“悪魔”は歩み寄る。
 沈黙のまま椅子に腰掛ける女性にではなく、ついさっき放り出した男へと。
 反射的に逃げようとする男の首を圧し折らんばかりに掴み、持ち上げる。
 恐怖に目を見開いた男へと顔を寄せて、“悪魔”は前以上の凄惨な笑みを浮かべた。
「ここで僕に全てをブチ撒けるのと脳漿を壁にブチ撒けるの、どちらがお好みですか?」
「ぁ……ぅ、なぁ、あ……がはっ」
 何の容赦も無い握力が男の頸部を圧迫する。
 それでも尚、彼はその視線から目を逸らす事ができなかった。
 薄暗い鳥篭の中、

「教えてもらいますよ。この玩具の“なにからなにまで(すべて)”を」

“悪魔”が嗤う。


††††††††††††††††††††††††††††††††††††††


「起きなさい、“鴉(レイヴン)”」
「なん……で、しょうか……」
 砂漠を渡る風のように乾いた声が、女の唇から落ちた。
 水気を失ったが皮膚がカサリと音を立てる。
「ゴーストです。正確には、『来訪者』と言うべきでしょうか」
「ゴー……スト………!」
 機械仕掛けのように立ち上がった女――“鴉”の瞳に焔が燈る。
 混濁した幾多の感情が燃え上がり、昏い色の火の粉を散らす。
「奴らは特区内の至る所で活動しています。その殲滅が今回の任務です」
 人形のようだった総身にどこかおぞましい活力が漲っていく。
 何の感情も象っていなかった口角が次第に歪な弧を描く。
 ここまでは、いつも通り。
――けれど
「僕だけでは、どうしようもできないのです」
「え………?」 
――その日
 今までに無い言葉に、“鴉”は不思議そうに首を傾げる。
 それは、まるで人形が人の動作を真似ているかのように歪な仕草だった。
「奴らは『あの人達』に……あの寮の、皆に擬態しています……けど、悔しいけれど、僕には奴らを倒す力が無い………僕だけでは、とても奴らを倒すことができない………!」
――そこに立っていたのは
“鴉”の視線の先、悔しげに拳を握る見覚えの無い、ケレド知ッテイル知ラナイ誰カ。
 太陽のような金色の髪と、晴天のような青色の瞳をした『彼』は。
「お願いです……僕と一緒にあいつらを、一人残らずブチ殺してください」
「あなたは……」
――本物の
 天使のように、嗤って言った。
「あなたは……だれですか?」
「忘れてしまったんですか、“鴉(レイヴン)”」
――“悪魔(ザミエル)”だった。
「“悪魔”さん……ですか」
「ええ、そうですよ――僕の可愛い“駒鳥(クックロビン)”」
 愛しい人形(レイヴン)を抱き寄せて、

「参りましょう、お葬式(トムライ)の鐘を鳴らしに」

 狩猟の悪魔は、とても優しげに微笑んだ。


  All the birds of the air   空の全ての鳥たちが
  Fell a-sighing and a-sobbing, ため息をつきすすり泣きをして
  When they heard the bell toll 鐘が鳴るのを聞いたのです
  For poor Cock Robin.     可哀想な駒鳥のために。
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  1. 2007/09/27(木) 20:13:32|
  2. 番外編
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