IF Another despair side:Syugeibu

あってはならない未来。 けれど、ありえなくはない未来。

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El.3

【IF Another despair side:syugeibu】Le cauchemar heureux d'une fille(少女の幸せな悪夢)


 そこは、暗い闇の中だった。
 ぬるま湯に潜っているような不思議な感覚だ。
 凄く暖かくて、柔らかくて、安心できて、だんだんまぶたが開けていられなくなっていく。
 あぁ、凄く……幸せな気持ちでいっぱいです……。






 館の扉の前にヒカルは佇んでいた。
 辺りは朝日に包まれており、雀の鳴き声が何処からか聞こえてくる。
 どうしてこんな所に立っているのでしょう?
 ……あぁ、そうでした。ボクはいつもの散歩から帰ってきたのでしたっけ。
 朝の散歩。それは彼女の日課だ。
 朝食が始まるのが七時頃。
 それまでに朝食を作っておくのが基本だが、いつも早くに起きすぎてしまうため少しだけ辺りを回るのが日課となっている。
 庭を見て新しい花を何にするか考えたり、朝の空気を吸い込みながら暖かい日差しを浴びてお兄様に歌を聴いてもらう。
 この朝の時間は大好きな時間の一つだとヒカルは思っている。

「しまった。のんびりしすぎてしまいましたね。」

 扉を開けて中に入り、急いでキッチンへと向かう。
 そこには既に帯刀さんが来ていた。

「ヒカル様、おはようございます。」
「帯刀さんもおはようございます。」

 いつもの執事服を完璧に着こなして挨拶する帯刀にいつものように挨拶を返し一緒に食事の準備を始める。
 今日の朝食は焼きたてパンと手作りイチゴジャムにベーコンと目玉焼き、サラダと牛乳がメニューになっていた。
 ヒカルが作った料理を帯刀がトレイに入れて運んでいく。
 丁度全員分のベーコンが出来上がったところでぞろぞろと早起き組みや朝帰り組みが入ってくる。

「おや、今日は洋食の朝食なのかい?」

 裏沢の言葉にベーコンを更によそいながら頷くヒカル。
 良い匂いに腹の虫に催促されたのか、皆急いで食器を出していく。
 帯刀がベーコンと目玉焼きをよそった皿が入ったトレイを持ってくると何処からか生唾を飲む音が聞こえた。学生は食べ盛りなので仕方がない事だろう。
 牛乳瓶を配りながら食堂の時計を見上げると後少しで七時の鐘がなる所だった。
 もうそろそろ他の人もやってくる時間だなと思いつつ急いで配り終え、丁度焼きあがったパンを大きな二つのトレイに入れていく。
 入れ終わった丁度その時、七時の鐘が入り口の時計から聞こえて来た。

「ヒカル様、私も持ちます。」

 帯刀さんの言葉に甘え、もう片方のトレイを持ってもらう事にした。
 それを運び出そうとしたその時、食堂の扉から眠そうな天野さんとそれを引っ張る冬美さん。おはようと笑顔で良いながらこちらに手を振るさつきさんとフレアさんが入ってくる。
 さつきさんに手は空いていなかったので微笑と共におはようと返事を返す。
 天野さんが寝ぼけためで帯刀さんのトレイとボクのトレイを交互に見て、突如帯刀さんのトレイを引っ張る。

「俺が持つ。」

 どこか寝ぼけた口調のまま言っている天野さんに帯刀さんはトレイを抱えなおし天野さんの手を振り払う。
 むきになったのか今度はトレイを帯刀さんから奪い取った天野さん。
 少し顔を引きつらせて奪い返す帯刀さん。
 更に奪い返す天野さん。
 それをまた奪い返す帯刀さん。
 それを繰り返すうちに口論が始まってしまい、いつのまにか口調の悪口やテストの成績で口論している二人にどうしようか困っていたボクの背中をフレアさんが押して進ませる。

「と、止めなくて良いのですか?」

 ボクの言葉に苦笑いを浮かべると「すぐに収まりますから気にしちゃダメです。」と言われた。
 後ろから何か打撃音のようなものが聞こえたが、見る事は出来なかった。

「ま、まったまった。待って下さいよぉ~!」

 食事の準備が終わり食べようとした時、遅れて鳳凰堂さんが入ってくる。
 どうやらうっかり朝寝坊をしてしまったようで、ボクが立ち上がるよりも早く立ち上がったイリアさんに食事をよそって貰えたようだ。
 鳳凰堂さん、昨日は夜遅くまでゴーストタウンに篭っていたみたいでしたから仕方が無い。
 気合が入っていて良いのですが寝坊するほど頑張るのは体に悪いのです。今度そう言ってみましょう。
そんな事を考えながら手を合わせた。

「「「「「「いただきます!」」」」」」



 食事が全て終わった頃にはいつもどおり八時の鐘が鳴っていた。
 これから寮生は館から出発するバスに乗って銀誓館学園へと向かい、勉学に励む。
 バスの出発はもう少し。寮生は朝食をとらなかった人も含め、続々と玄関へと集まる。
 そうだ、これが現実なんだ。
 今までなんだか悪い夢を見ていたような気がする。
 どんな夢を見ていたんだっけ?
 なんだかとても嫌な夢で、凄く悲しくて、切なくて、信じられないような恐ろしい夢だった気がする。
 あぁ、夢でよかった。これが現実なんだ。
 本当に良かった。
 そんな事を考えながらヒカルは扉の前で点呼を取っていく。
 辺りでは小声で休みの日の計画の打ち合わせや宿題の出来などを言っている寮生たち。
 うん、誰も欠けていませんね。

「では、出発しましょうか。」

 その言葉にようやく出発かと座っていた者が立ち上がる。
 扉に手をかけ外へ出ようと開くとそこには……



 一面の血溜まり
 倒れ伏すあの子達。
 其処にはあの時には居なかったかつての寮生達も血の海に沈んでいた。
 ナニカが手に触れる
 視線を下ろす。
 虚ろな瞳のカレと目が合った。

「あ…あぁ……ぁぁぁああアああアアアあああアアアア!!!!!」

 頭が割れる。
 異物が入り込んでくる。
 体が痛い、熱い。
 気持ち悪い、入ってこないで。
 息が出来ない。
 苦しい、悲しい、ドウシテ、ナゼ。
 ウソダ…ウソダ……ウソ……ウソ、ウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソウソ…ウソ……ウソ…………。






【20XX年 封鎖特区 横浜】

 カプセルの中の少女が暴れる。
 溶液の対比を4:6にしてからもう数日立つが、一向に安定しない。
 一日に何度も拒絶反応を見せる。
 博士曰く「体が異物の本格的な内部進入に抵抗しようとしているのだろう。後2~3回同じ抵抗があればサンプルの精神が疲れを見せる。そこでいっきに割合を6:4に増やすぞ。」などと前に言っていたが、そんな事をすれば少女も今までのサンプルのように失敗するのではないのだろうか。
 博士にとってはたいした問題ではないのだろうが、いちいち適正の能力者を探し出して連れてくるのはとても手間のかかることだ。
 実際、今回など少女がこちらに来たとき瀕死の状態だった。
 おそらく博士が向こうに出向かなければ瀕死どころか殺されていてもおかしくなかっただろう。
 その辺りの政府との意思疎通をもっとしておかなければいけない。

「でも、一定の拒絶反応の後、脳波がいつも同じになるのは何故でしょう?」

 モニターと睨めっこをしながら呟いた職員、の言葉に少し眉を寄せる。
 彼は此処に来て間もない研究員で、名前は田島・清人という。
 真面目でお人よしな部類に入る彼はこの研究施設にはあまり似合わない存在だ。
 そんな事を考えていると、不快に思われたと勘違いしたのか慌てて「余計な事を申し上げてすみません」と言ってきた。

「いいよ。私は瀬戸内博士じゃないんだ。気にしない。」

 安堵した様子の田島に苦笑いをこぼすと少女のいる部屋のミラーガラスに手を当てる。
 少女は今もこの世の終わりのような悲鳴を上げて拘束具を無意識に解こうともがいている。
 本当は此処で安定剤を注入するのだが、瀬戸内博士の指示で肉体も精神も疲弊しきった所で溶液を入れるとの事なので、拘束具で抑えるのに留めている。
 拘束具が彼女の体に食い込みすれて血が出る。
 すぐさま直るが、また同じように食い込み血が出てと同じ行動を繰り返している。
 先程まで嬉々として少女の悲鳴で出る衝撃波を計測していた瀬戸内博士は一定の測定が終わったと言って別室へと入っていった。
 おそらく、失敗したサンプルから新しい溶液を少しでも確保するために採取しに行ったのだろう。
 サンプルが残留思念を残すように様々な実験をしているのだろう。
 この部屋も少女の部屋もこの施設にある部屋は全て完璧な防音設備の為それらの音は聞こえる事は無い。
 それは正直ありがたかった。
 そんな音をいちいち聞きながら作業をする事は精神的に不可能だ。
 精神的……か。

「夢を繰り返し見ているのかもしれないね。」
「夢……ですか?」
「そう。人は自分の心の傷が深くなると無意識のうちに癒そうと夢を見させると聞いた事がある。夢を見て心の傷を少しでも癒しておこうとするんだ。」

 私の言葉に疑問を持ったのか首を傾げる田島。

「なら何故あのような悲鳴を出して、脳波が乱れるのですか?」
「さぁね。溶液が何か関係しているのだろうが、詳しい事は瀬戸内博士にしかわからないだろうね。気になるなら瀬戸内博士に聞くと良いさ。」

 投槍に言うと顔を引きつらせて首を振る。
 その様子におかしくなり少し笑ってしまった。

「だいぶ安定したようです。通常に戻りつつあります。」

 他の職員の言葉にモニターを確認する。
 たしかにいつもの状態に戻りつつあった。
 精神・肉体の衰弱度はだいぶ良い感じになりつつあるようだ。

「じゃあ、博士に言ってくる。」

 部屋を出ながら考える。
 あの少女には可哀想だけどもうそろそろ博士の言っていた6:4の割合にするんだろう。
 私にできる事はせいぜい今は幸せな夢を見てもらうように祈る事くらいね。
 そんな事を考えながら狂気の笑みを浮かべて手術台のような台に張りつけられている裸体の失敗サンプル……胸のふくらみから見ると女性だろうか。
 その失敗サンプルから色々と『剥ぎ取って』ビンに入れる瀬戸内博士に少女の容体を無表情伝える。
 サンプルの恐怖と絶望の悲鳴をBGMに、試験管に入れた爪を観察しながら内容を聞いていた瀬戸内博士は、試験管を台座に置いた。

「やっと次に移れるのか。」

 ようやくかという感じで呟いた瀬戸内博士の言葉にほんの少し眉がよる。
 この男にとってサンプルなど所詮はモルモット。
 使えなくなればそれまでという考え方だ。
 むしろこの少女は今までの失敗を考えてかなりの時間をかけている。
 この段階まで来るのにこれだけの時間をかける事など、今までのこの男にはありえない事だ。
 まさかとは思うが、サンプルに何か関わりがあるのだろうか?
 だが、そんな事は気になっても口にしない。
 口にすれば最後、そこに拘束されているサンプルのような末路が約束されているからだ。

「では、次の段階へ移るのですね。」
「あぁ、用意してくれたまえ。」

 博士の言葉に頷くと部屋を出る。
 視界の端にメスを持った博士が見えた。
 悲鳴は扉を閉じた音でかき消されて聞こえない。

「さて、溶液を取りに行ってきましょうか。」

 胸の痛みを気のせいだと却下して歩き出す。
 どうか少女に良い夢を見せてくれますように。






 始まりにして終わりの地、鎌倉。
 世界結界はもはや意味をなさず、
 敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。
 そのすぐ隣に存在する特区。
 終末のお隣さん、とも揶揄されるもう一つの封鎖特区。
【封鎖特区・横浜】
 この話は、世界の終りの一歩手前で紡がれている物語。
 それは少女の幸せな悪夢の世界。
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  1. 2007/09/27(木) 21:07:49|
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