IF Another despair side:Syugeibu

あってはならない未来。 けれど、ありえなくはない未来。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

El.6

【IF Another despair side:syugeibu】Un souhait de la larme a confié au pigeon(鳩に託した涙の願い)


【20XX年 封鎖特区 横浜】

 始まりにして終わりの地、鎌倉。
 世界結界はもはや意味をなさず、
 敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。
 そのすぐ隣に存在する特区。
 終末のお隣さん、とも揶揄されるもう一つの封鎖特区。
【封鎖特区・横浜】
 この物語は、世界の終りの一歩手前で紡がれる。



【特区横浜・某政府研究施設内】

 溶液の対比を半分以上に上げた博士はついに本格的な肉体への実験を開始した。
 意識を取り戻した少女は状況を確認する間もなく痛みを与えられ、訳もわからないまま引き千切られた痛みに悲鳴を上げて暴れる。
 カプセルは成人男性が楽に入れる広さに設計されている為、小柄な女性であり、拘束具で固定されているヒカルがどれほどもがこうともカプセルの衝撃吸収ガラスに触れることすらかなわない。
 意識を取り戻す必要があるのかと博士に聞いたが「溶液を使った事による痛みに対する脳波の変化を調べる」と言った。……本人の趣味ではないかとも思う。






 あれから随分時間が経った。
 感染症や細菌への抗体調査、肉体再生時間の促進、そして何よりも驚いたのは、少女の精神の強さだ。
 今までのサンプルはその過程で必ず精神に異常をきたしていたにもかかわらず、少女の瞳には理性の光が宿っていた。
 それでも肉体的、精神的苦痛でやつれてだんだん瞳の光が弱くなっていく。
 そして今日も、実験は続いた。

「もっと圧力を上げろ。」

「もっとですか。」

 私の言葉に鋭い視線を向けられる。
 聞き返すなと言う事だろう。

「!?これ以上は骨が折れます!!俺は反対です!」
「黙りたまえ、それ以上の口答えは許さん。君もサンプルになりたいならば構わんがどうするかね?」

「ぐ……」

 田島が黙り込んでしまう。
 そうだ、所詮私達はプロジェクトの一部に過ぎない。
 補充の人材はいくらでも転がっているのだ。
 俯いている田島を不憫に思いながらも腕への圧力を更に上げる。
 右腕を包んでいた筒状の機械が別々に動き圧力をかけていく。
 軋んでいる骨を助けようと左手を伸ばすがそれは拘束具に邪魔されて届かない。
 拘束から逃れようと身を捩るが、少女の力では能力者用の拘束具から抜け出す事はかなわない。
 そしてついに腕が耐え切れなくなったのか、嫌な音と共に腕があらぬ方向に曲がった。

「!!!」

 声にならないのかせめてもの抵抗で声を上げないようにしているのか、歯を噛みしめ声を出さないようにしている。
 顔は青ざめ、もし溶液の中に居なければ脂汗が浮かんでいるだろう。
 それでも声を上げずもがき続ける少女。
 それを瀬戸内博士が目を細めて見ている。
 少女が最初より更に悲鳴を上げなくなっているのがつまらないのだろうか。
 目線をはずし、モニターを見た博士はグラフに手を伸ばすと私達の方を向く。

「限界まで計測して通常と比べる。これが実験というものだ。覚えておきたまえ。」

 折られてしまった少女の骨を治療しようとレントゲン機器を部屋に入れ、少女の腕を撮る。
 するとそこには既に殆ど治りかけている骨があった。


「……なるほど、やはり普通の人間よりも強化されているか。再生能力は内部にも影響を与えているようだな。骨が折れる時の圧力も普通の人間より遥かに強い圧力だった。ならば骨以外の内臓などはどうだ?能力者としての能力は?今の六割の状況でこれなのだ。全てが満たされた時はどうなる…」

 ギラギラと狂気に染まった瞳で呟く言葉に鳥肌が立つ。
 できるかぎり無表情で経過を記録する。






 ようやく、痛みが治まったのか荒く息をする少女。
 博士が近づき、手に持っている三角フラスコを見せた。
 そこには小さな肉塊が転がっていた。
 明らかに異常な形態の『ソレはもぞもぞと動いている。
 銀色の突起物があちこちから生え、小さくもおぞましい口のような裂け目から奇声を発していた。
 少女の顔に困惑の色が見えた。

「わからんかね? これはキミから採取した卵子とサンプルの精子で作り出してみたものだ。」

 少女は驚きの表情に変わり、別個の生命体のようなソレを見る。
 ソレは少女から採取したとは思えないほど変貌していた。
 博士の言葉に悲しみの表情を浮かべる少女。
 それはつまり『普通の子供』は生むことが出来ないと宣告されたようなものだ。
 少女の様子に首を傾げる博士。
 ……そうか、この男は理解できないのだ。
 相手が何を不快に思うのか。
 嫌がらせのような言葉の数々は全て、嫌味だが真実だった。
 だから今もただサンプルに『説明』しているだけなのだ。
 何故説明しているのかはわからないが、嫌がらせの類ではないだろう。
 おそらく、ここまで耐えたサンプルへの『褒美』のようなものかもしれない。
 だが、この男にとって親愛は理解できない感情なのだろうか。
 この説明を受けたサンプルがどういう感情になるのか人間の精神から逸脱したこの男は考えもしないのだろうか。
 ミラーガラスの向こうにいる博士と少女を見ながら近況情報を見張りの兵士から聞く。

「他の部署のサンプルは結局見つかった?」
「いえ、結局どこを探しても見つからなかったそうです。銀誓館学園に在籍していた時の寮をこれから捜索するつもりです。」
「……それは、あの少女が寮長を務めていたあの館の事か?」
「はい。」
「……まぁ、見つからなかったのならば仕方がないさ。探し始めてもう一ヶ月以上経つのだろう?」
「は、はい。」
「ならば、これ以上は仕方がないさ。捜索は終了しよう。」
「え? で、ですが……。」
「いいからいいから、警備の仕事に戻れ。」
「は、はい。」

 敬礼をして去っていく兵士を見送りながら思った。
 おそらく脱走した女性、クリス・ラズヴェルは木漏れ日の館にいるだろう。
 もし寮を捜索していれば、その脱走した少女が見つける。
 だが、捜索中止を言ったのは少女へのせめてもの侘びのつもりだった。
 しかし、彼女は選択を間違えた。

 なぜなら、良心を捨ててクリスを捕まえれば、彼女達は死ぬ事は無かったかもしれないから。






 
 腕はかすり傷だらけ、裸足だった足は歩くたびに傷が深くなり血が流れる。
 先程まで館の前にいた軍の人達は何故か帰っていった。
 荒く息をしながらクリスは他に追っ手がいないか確認しながら離れの管理小屋に入る。

「ど、どうしよう。ヒカルちゃん、あそこにいたのに。僕、僕、助けなきゃいけないのに。でも、カードが無いし、ヒカルちゃん逃げろって……場所もわからなくなっちゃった……どうしよう。どうしよう。どうやって伝えるの。どうするの。」

 館の入り口で泣きながら蹲る。
 ヒカルに頼まれた事を果たしたいが、どうやって伝えれば良いのか分からなかった。
 その上、前よりも思考が広がらない。
 熱のせいなのだろうか。
 そんな事を考えながら蹲っていた。



 クリスが捕まったのは木漏れ日の館の惨劇が起きてからすぐの事だった。
 本家の当主であるヒカルの遺体や、館の人達の遺体を返してもらうために抗議しに行ったが、そのまま拉致されてしまい此処に連れてこられた。
 カプセルというのは溶液の精製の難しさと量の関係で一つしか作れないため、クリスは完成されたばかりの新薬の実験を受けた。
 薬を飲んでからゴーストとの戦闘などで戦闘データを取る。
 副作用の頭が割れるような痛みに耐え、高熱で朦朧とする意識の中戦う。
 他の副作用を調べるために一日に何度も検査をする。
 その日もそれらの実験が終わり、清潔な独房のような部屋に入れられふらふらになりながらベッドに倒れこんだ。

『   』

 最初は熱で幻聴を聞いたかと思ったが、そのかすかなに聞こえた歌声はヒカルのものだった。

「ヒカルちゃん、ヒカルちゃんなの?」

 声を聞いた直後、体が少し楽になったと感じながら誰もいない空間に問いかけてみる。

『……さん?…ど……ょうぶで……』

 途切れ途切れに聞こえてくる声に一気に飛び起きる。

「ヒカルちゃん。どこ? 幽霊になっちゃったの?」

 意識を集中させながら声を聞き取ろうと耳をすませる。

『ボクは幽霊…なっていませ…この施設……実験……。』

 所々聞き取れなかったが、生きているとわかり胸が熱くなる。
 よくわからなかったが、実験を受けているらしい。

『クリスさん逃げて……レインさん…伝え…。』
「わかった、伝えるんだね。……うん、やってみるよ。」

 それから、逃亡の機会を図っていたクリスだったが、警備が厳重で逃げ出す事が出来ず、数ヶ月がたった。
 最初に聞こえていたヒカルの声は時と共に弱弱しく悲痛な声に変わり、クリスが呼びかけても返事がない事が増え、声が聞こえなくなった時、ようやく逃亡のチャンスを得た。
 他の施設が被験者を欲しがっていたため別の施設に移る事になったクリスは、護送中に警備の隙を突いて逃亡した。



 涙が治まりようやく顔を上げたクリスは管理室の中を見回す。
 前にヒカルに何か緊急の連絡手段を教えてもらったような気がしたのだ。

「確か、本棚の中に方法があるって言ってたっけ。」

 記憶をたどりながら教えてもらった本を探す。
 緑色の背表紙で、タイトルが『鳩の手紙』だ。

「……あった。」

 分厚い本を開くと札のようなものに色々と呪文のようなものが書いてある白く細い紙が巻きつけられていた。
 その紙を剥がすと小さな音と共に鳩が現れた。

「そうだ。風我おねーちゃんが雷覇君から頼まれたって言ってヒカルちゃんにプレゼントしてくれたんだっけ。」

 この鳩は雷覇と風我が学園を卒業した時に、もしもの時に連絡できるようにとヒカルにくれたお札だった。
 普通の札は即席で、偽身符でも一週間しか効力が持たないので、それを非常時だけに現れる伝書鳩を作るのにかなりの労力を費やしたらしい。
 クリスはその鳩に事の顛末と救助要請を書いた手紙をくくりつけ、空に解き放った。

 そうして鳩は無事に風我の元にたどり着き、風我からレインに伝わり、そしてその情報は翔護の耳へと入る事となる。

スポンサーサイト
  1. 2007/10/03(水) 19:52:10|
  2. 過去編
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<El.7 | ホーム | El.5>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://ifadsides.blog118.fc2.com/tb.php/37-9355772e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

カテゴリー

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

FC2カウンター

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。