IF Another despair side:Syugeibu

あってはならない未来。 けれど、ありえなくはない未来。

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Le.18

【IF Another despair side:syugeibu】流れ星、故郷へ帰る(Crimson shooting star/Return to lost EDEN)


――某日、深夜。某埠頭。

その日は、静かな夜だった。
岸壁を打ち付ける波は穏か。
今夜は岸壁に大型船も無く、汽笛の音色も無い。
昼頃から降り続く雨の音色だけが夜の闇に響き渡っている。
月に吼える野犬の鳴き声も無く。
週末の逢瀬を楽しもうと車を走らせてくるカップルも無く。
終末の日々を謳歌する若者達のバイク音も無く。

それ故に。
ばしゃばしゃと水音を鳴らしながら走る、複数の人影に目をやる者も誰一人居なかった。


...//IF Another despair side:syugeibu


「…場末の酒場って感じだな」
口を突いて出た言葉に、初老の店主は「まぁな」と素っ気無く答えた。
木目調を主体としたアンティークな内装の酒場。
カウンター席しかないその小さな店には、スーツを着た男とギャルソン服と着た老人の二人だけだった。
数年前に大きな変革を向かえていても、此処だけは隔絶されているかの様に、およそ近代的と言えるモノが何一つと無いその店内には、ブランデーに溶けるロックアイスの音と、ジャズナンバーを奏でる蓄音機の音色だけが響いていた。
ノイズの混じった音色に耳を傾けつつ、オレは独り、グラスを傾けていた。
「時の止まった店、か。…このご時世じゃ、此処は天国とも言えるかもな…」
初老の店主は、オレの独り言に言葉を返す事も無く、唯静かにグラスを磨いていた。

…だからかも知れない。
最初にぱしゃぱしゃと近づく水音に気づいたのは店主の方だった。
店主が唐突に入り口の扉に視線をやると、突然その扉が勢いよく開かれ、一人のずぶぬれの少女が飛び込んできた。
その音で気づいたオレと少女の視線が合うと、少女はオレの背に隠れるかの様にすがりついた。
「た、助けて下さい…っ、追われて居るんです!!」
突然の出来事に、オレが僅かに戸惑っている間に、再び―今度はばしゃばしゃと言った様相であったが―闖入者が現れた。
「やれやれ、面倒かけさせやがって。…そこの兄さんよ、ヒーローぶってカッコ付けたりすると痛い目見るぜ?」
見るからにマフィア―しかもオールドムービーのだ―の様な格好をした男達に、少女は明らかに怯えていた。

…何つーか、あまりにも出来すぎたシチュエーションな気がした。
「まぁ、何だ? お約束すぎるっちゃぁお約束すぎるよなぁ」
オレは傍らに置いておいた愛用の白い帽子を被りながらそう呟いた。
「助けて下さいっ!? あの人達…私を狙ってるんです!?」
背中にずぶ濡れの少女がすがり付いて来る感触。
「やれやれ。俺も少しはこの筋で名が知れちまってるし…面倒事はご免なんだがなぁ」
その言葉で気づいたかのように、マフィアもどきの一人が口を開いた。
「その白いスーツに白帽子に紅いシャツ…その格好は…まさか、紅の流れ星かっ!?」
その言葉に、オレはにやりと笑う。
「何だ。知ってるんじゃないか、俺の事」
オレがそう言うと、マフィアもどき達はげらげらと大笑いした。
「はっはっは。こいつは紅の流れ星なワケじゃねぇんだ。面倒だ、さっさとやっちまうぞ!!」
「それは、オレが面倒だ」
マフィアもどきが仕掛けてくる直前に、オレは愛用の煙幕弾を投げつけた。
「なっ!? 手前ェおいこら!? 余計なちょっかい出しやがって!?」
連中の罵声を背に、オレは少女を抱えてすたこらさっさと裏口から逃げたのであった。

「あ、あの、流れ星さん? あの人達をやっつけるとか、そういうコトは…?」
「あのな、タマ代も馬鹿になんねぇし、何よりめんどくさいじゃんかよ」
カッコつけてヒーローぶるのはいいけど、生憎根無し草の身の上では弾丸一発たりとも無駄には出来ないのであった。
ま、ああいう展開だとオレがかっこよく抜き撃ちでも披露するのがセオリーなんだろうけどな。
生憎、オレはんな面倒な事は避けられるヤツは避ける主義なのであった。

          ◆

…数十分後、煙幕の晴れた酒場に一台の車が止まっていた。
「面目ありません、若頭。その…何というか、余計な邪魔が入りまして…」
既に雨の止んだ曇り空の下、男達は車内の男に事のあらましを説明していた。

「…参ったねぇ。まぁ一応この辺り一帯にゃ非常線は引いてあったし、そう遠くへは行けねぇとは思うから」
「とりあえず、手空きの者に捜索は命じてありますので、多分すぐに追い詰められるかと…」

その時、ガァンという銃声が辺りに響いた。

「…見つかった様です」
「やれやれ。ケガ人が出なきゃいいんだけど…難しい話かなぁ…」

          ◆

「マズいな…。すっかり囲まれちまってたか…」
もうちょっと簡単に逃げられるかと思ってたオレは甘かったらしい。
この埠頭はとっくに連中に封鎖されていて、オレは何度か見つかりそうになりながらこの倉庫へ逃げ込んだのであった。
「チ、参ったな…。何つーかクライマック入るの早すぎだぜ」
愛用のグロッグのマガジンを確認すると、残弾は七発。…いや、さっきうっかり見つかった時に一発撃ったから残り六発か。
予備のマガジンは五本。煙幕弾は既に使い切ってしまった。

逃げ込んだ倉庫の外に、何台かの車が止まる音がした。
話し声や足音から察するに二十人は居るだろうか。
「流れ星さん…」
潤んだ瞳でオレを見上げてくる少女に、オレは笑顔で返す。
「何、心配するな。オレとて伊達に一つや二つの修羅場を潜り抜けてきたワケじゃねぇぜ?」
そうさ。オレは天下の紅の流れ星。
伊達に修羅場を潜って来たワケじゃねぇし、あんなコスプレ連中に劣るような腕前でもない筈だ。

…出口は生憎同じ面にしかないから、裏から逃げると言う手も使えない。
「正面突破、か。流れ星対マフィア二十人。…クライマックスにゃいい展開だぜ」
オレが銃を手に立ち上がろうとすると、くい、と服の裾を引っ張られた。
少女の方に向き直ると、彼女はオレに縋り付く様に冷えた体を寄せてきた。
「…私、貴方が欲しいの」
頬を染めてオレを見上げてくる視線。
ああ、確かにそれも魅力的な提案ではある。
彼女は…何というか、神秘的な雰囲気ではあったし何より――いい女だと、直感で思っていた。
彼女と共に最後の時を迎えるのも悪くない。が…、
「悪くないが…、そいつぁ生きて明日の夜明けを迎えながら、ベッドの上で、な?」
そう言って、強くすがりついて来ていた彼女を引き剥がした。

「よし、んじゃ…蹴散らして来るとしますかっ!!」
うおおお、と気合の叫びを上げながら俺は飛び出すように外へ向かい、ドアを蹴り開けた。






…その瞬間、一発の銃声と、頬を掠める風の感触。


「わぶっ!? …って、へ?」
勢い良く飛び出した。
確かオレは銃弾の雨覚悟でに勢い良く飛び出したが…、

まさか、ドアから三歩でぶつかるトコに敵が居るとは思わなかった。
オレが驚きに僅かに戸惑っている隙に、
「よし確保!!」
オレは目の前に居たコスプレ野郎に取り押さえられていた。
その直後、銃声の嵐。

「ちょ、しま…っ!?」
ちょ、ちょっとまて!?
あんまりにもあんまりな展開じゃねぇか!?
つーか結局オレは彼女の役に立てないままに!?
…オレはあわてて彼女の方に視線を向けると…………、

「……………へ?」
割とすぐ目の前――丁度オレが飛び出したドアの辺りだ――に、下半身蛇のバケモノが横たわって居た。
既に雷鳴の様に鳴り響いていた銃声は止んでいる。
「言ったはずだ。ヒーローぶってカッコつけたりすると、痛い目を見る、とな」
気づけばオレは既に開放されていた。
「お、おいちょっと待てよ!? 一体どういう…!?」
「しかし、見事な狙撃でした。…あの一発が無ければ、この馬鹿は奴に喰われていたでしょう」
「聞けよ!? あと馬鹿って何だ!? 手前ェオレを誰だと思ってやがる!?」
オレを無視して誰かに話しかけてるコスプレ野郎にそう噛み付くと、急に辺りが静まりかえった。
「……へ?」
「…まぁいいんじゃねぇか? 若ぇ奴にゃよくあるコトだしさ。そうだろう? 紅の流れ星さんよ?」
声のする方を見ると、車のヘッドライトを背に、一人の男が近づいて来た。
「…あ、ああ。まぁ、そうだな。うん」
…あれ?
「あとあの狙撃が無くても、お前らなら上手くやれたさ。まぁ何だ。俺が撒いた種みたいなもんだしなぁ。フォローはさせて貰ったけど、な」
コスプレ野郎にそう言う、その男の姿は…

白いスーツに、白い帽子。
紅いシャツに、紅い髪。

「ま。まさか…」
まさか。今俺の目の前に居るこの男は…、
「えーっと、まぁ、何だ。…俺も同じ二つ名なんだよなぁ、これが」
いやー、参った参った、と苦笑いする「本物の紅の流れ星」を前に、オレは思わず卒倒してしまったのであった。

          ◆

「…以上、これが今回のリリス討伐の報告書です」
「あいよ。しかしまぁ、最後の最後で俺の偽者に出会うとはなぁ…」
「…まぁ、笑い話としてはそこそこかと。…若頭も大変ですね」
「だーかーらー、若頭言うなっての。それじゃヤクザみたいなもんじゃねぇかよ。お前らもそんな格好だしよ。…お前らは、この街をゴーストとかから守るヒーローなんだぜ?」
「…それは結局は理想であって、夢物語です。人間はヒーローになんてなれない。あの偽者もそうだし、俺達だってそうだ。…それに、それは若…いや、紅太郎さん、貴方が一番良く知っている筈だ」
「…………そうだな」

酒場のカウンター席に並んで、俺達は別れの酒を飲み交わしていた。
俺が流れに流れてこの街にやって来て数ヶ月。
当時、対ゴーストとして結成されたものの、未だ未熟だった此処の自警団の連中の面倒を見るのを頼まれてから、数ヶ月。
最初は面倒とも思ったが、今になれば名残惜しい。

…それに、銀誓館学園に居た頃を思い出して…僅かだが、楽しくもあった。

まぁ、皆して俺の格好真似するのは本気で勘弁なのだが。
「それでは、俺はそろそろ。…家で、妻も待っていますので。では、本当に今までお世話になりました」
近藤――この街の自警団の団長だ――は席を立ち、俺に深く頭を下げてから、店を出ようとした。
「―――近藤」
俺はその背中に声をかけて呼び止め――、
「………頑張れよ。こんな世界でも、自分の手の届く所に居る人くらいは守れるんだ。お前は、お前の家族のヒーローになれるんだからさ」
―――本当は、謝ろうと思った。
世界結界の崩壊。
それこそが、今の世界を脅かす脅威の現況。
それに確かに関わっていた俺には、その責任がある。
…だが、謝ってどうなる。
進んでしまった時計の針は戻せないし、こぼれた水は還る事は無い。
だから結局…有り触れた激励の言葉しか言えなかった。
それでも…俺の言葉に、近藤は笑顔で返してくれた。
そして彼はもう一度俺に頭を下げて、家族の元へと帰って行った。

          ・・・

木目調を主体としたアンティークな内装の酒場。
カウンター席しかないその小さな店には、スーツを着た男とギャルソン服と着た老人の二人だけだった。
数年前に大きな変革を向かえていても、此処だけは隔絶されているかの様に、およそ近代的と言えるモノが何一つと無いその店内には、ブランデーに溶けるロックアイスの音と、ジャズナンバーを奏でる蓄音機の音色だけが響いていた。
ノイズの混じった音色に耳を傾けつつ、俺は独り、グラスを傾けていた。
「家族の待つホーム、か。…帰る場所ってのは天国だよな。どんな世界でも、さ」
「そうだな。…こんな時の止まったような店は天国じゃあない。唯の止まり木よ」
初老の店主は、オレの独り言に言葉を返しながら、唯静かにグラスを磨いていた。

「…それで、帰るのか? あの地獄に」
「ああ。…いや、生憎、俺が帰る場所はもう無くなっちまった。…でも、だからと言って何も見ないままで気が済む程、俺ぁ割り切れねぇ」
懐から一通の手紙を取り出す。
…其処には、現在の封鎖特区鎌倉と、封鎖特区横浜の現状が事細かに記してあった。
それと、どうやって入手したのかは解らないが、政府の封鎖特区危険人物リストも添付されていた。
其処に刻まれた、見知った名前達。

俺があの土地を離れてから十年近い。
十年という時が彼らに刻み付けたモノ。
あの土地を離れていた俺には、決して解らないだろう。
あの楽しく過ごした日常には、決して戻れないだろう。
だが、それでも…俺に何をどうする事も出来ないとしても…。

          ・・・

「さて、んじゃ世話になったな、爺さん。…悪りぃな、最後の最後で面倒かけちまって」
「何、気にするな。アレはアレで結構面白い見世物だったわい。…んじゃ、達者でな」
時の止まった酒場に背を向け、夜の闇の中に足を踏み出す。
風はは冷たく、空を見上げても曇天で星も無く。
俺は愛車のハーレーに跨り、その闇の中を岸壁に沿って走り出した。
灯りの乏しい埠頭の光景は、これからの俺の道行きに等しい。
彼らの生存は俺に一つの光明をもたらし、
彼らの現状は俺に一つの絶望を与えた。

―――例えばの話なら良かった。

例えば、世界はよくなっていたのなら。
例えば、かつての戦いが実を結んでいたのなら。
例えば、自分の力が確かに届いていたのなら。

例えば、誰も何も失う事なく、平穏に過ごせて居たのなら――。

だがそれは所詮は理想だ。
だが、それでも…こんな最悪は望んで居なかった。

…だから、俺は逃げた。
その結果を直視する事が怖かったのだ。

そして…今。
覚悟は決まった。

子一時間も走ると、海の香りは、山の香りへと変わっていた。
高台から振り返れば、小さく、疎らに見える街の灯り。
小さくとも…この闇の中に光る安息の場所は、確かに其処に在る。
希望は失われた。だが、きっとゼロでは無い。
…だから、俺は探しに行く。
その地獄の中で、きっと残されているであろう希望を――。

「さて、アテも何も無ぇが…行くか」
今頼れるのは、この愛車と、サイドカーに積まれた幾つかの詠唱兵器と「切り札」のみ。
俺は懐かしい街に背を向け、僅かにヘッドライトに照らされる道を走り出した。

―――例え絶望しか無かったとしても、せめてその終末を見届けに。



【20XX年 封鎖特区 横浜】

そこは始まりにして終わりの地、鎌倉。
世界結界はもはや意味をなさず、
敵性来訪者の来襲、そしてシルバーレインによるゴーストの発生により荒廃した地。
数年前政府により戒厳令が布かれ、完全に外界との接触を絶つ為に封鎖特区として指定、厳重な監視の下で彼らはそこで生活している。

此処封鎖特区横浜も例外ではなく鎌倉と隔てるように壁が聳え立ち、隔離されている地区だ。

封鎖特区外でのゴースト事件などには政府直轄の能力者集団、若しくは封鎖特区から傭兵のような扱いで現地へ赴く。
しかし中には『能力者狩り』の様な事を食い扶持にしている能力者もおり、封鎖特区内の能力者の評判はすこぶる悪い。

力無き者は朽ち、力ある者のみが生き残る。
それが封鎖特区の単純明快にして唯一絶対のルール。

今日もどこかで、力無き者の果てる音が聞こえる。
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  1. 2007/10/09(火) 01:43:36|
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